苦痛のない内視鏡をめざして ~鎮静剤のおはなし~

■「胃カメラは苦しい!」は過去の話?

今でも「内視鏡検査は苦しい」と思っている方は、とても多いと思います。

かく言う私もその一人でした。

はじめて胃カメラを飲んだ時の苦しみは、今でも忘れることができません。
のどを通過する時の刺激でオエッとなり、そのあとは、ゲーゲーと吐き続けるばかり。

つらさのあまりスコープを引き抜いてしまい、検査の先生からこっぴどく怒られました。

「こんな苦しい検査、二度と受けたくない!」と思ったのが、私の「内視鏡原体験」。

そこから「苦しくない内視鏡検査」への探求が今に至るまで続いているわけです。

■内視鏡の検査はなぜ苦しいのか?

検査の時、オエッとなる「嘔吐反射」はなぜ起きるのでしょうか?

私たちには「異物の侵入」から身体を守るシステムが生まれつき備わっています。

「嘔吐反射」もその一つ。

口の中や胃の中に、変なものが入ってきたら一気に外へ吐き出してしまう仕組みです。

80歳から90歳と、年齢が進むにつれて、内視鏡は楽に飲めるようになります。
自分を守るシステムが衰えてくるからです。

その代わりに、食べ物が気管に入り込み、「誤嚥性肺炎」を起こしやすくなったりします。

「嘔吐反射」は私たちの身を守るためにとても重要な役割を果たしているわけです。

■内視鏡を「楽に飲む」工夫とは?

でも、内視鏡を飲まないと、胃や食道の病気をきちんと診断することができません。

1950年に、最初の「胃カメラ」が作られて以来、この難問に、多くの方たちが挑んできました。

「うどんを飲むようなものだから」と看護師さんがやさしく告げて、緊張を取るやり方もありました。

しかし実際のところ、「うどん」どころの騒ぎではありません。太いし、噛み切れない!

催眠をかけて飲ませるという発表を、学会で聞いたことがあります。催眠術師を呼ぶべき?

その中で、「これは効く」と評判になったのが、「静脈麻酔」。鎮静剤を注射して、眠っているうちに
検査が終わります。

私も早速試してみて、その効果に感銘を受けました。
あんなに苦しい検査が、いつの間にか終わってる!

■どのような「鎮静剤」がよいのか?

当時、よく使われていた鎮静剤は「ジアゼパム」です。

「セルシン」とか「ホリゾン」とかいう商品名で、不眠や不安によく処方されていた薬の注射薬。

ただし、効き目が長く、朝検査をすると夕方まで眠い感じが残ってしまうのが難点でした。

こうした鎮静剤には「拮抗薬」という薬があります。
「麻酔薬」としての効果を打ち消してしまう薬です。

検査が終わってから拮抗薬を打つと、すぐに目が覚めて、しばらく休んだあとに仕事にも行けます。

ただし、拮抗薬の効き目が切れてしまうと困ります。

ジアゼパムは長く残るので、拮抗薬の効き目が先に切れてしまい、夕方になってから眠気で交通事故を
起こしたという話を聞いたこともあります。

使う薬は慎重に選ばなければならないのです。

■「プロポフォール」はなぜ選ばれるのか?

その後も様々な薬が、静脈麻酔に用いられました。

・ミタゾラム(商品名:ドルミカム)
・フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)
・塩酸ペチジン(オピスタン)
などが有名です。

どの薬もそれなりによく効く薬ですし、私どものクリニックでも使うことがあります。
こうした中、1990年代になって新たに登場した薬が、「プロポフォール」です。

プロポフォールは、他の鎮静剤と同じ程度の効果があり、副作用などもほぼ同程度とされています。

しかしこの薬が知られるようになったのは、「すぐ効いて、すぐに覚める」という印象からです。

実際には、この薬の半減期、つまり血中濃度が半分になるのは、30分から1時間後とされています。

それでも、これまでの薬に比べて、注射してすぐ効き始め、10分~20分で目が覚める感触があります。

手術の時の麻酔から使われ始め、次第に内視鏡検査の現場でも広く使われるようになったのです。

■プロポフォールの長所

鎮静剤や麻酔薬は、私たちの脳に働きかけて、その活動を一時的に弱めます。

作用が強過ぎるとと、心臓や肺の動きに影響が出て血圧が下がったり、酸素濃度が下がったりします。

だから、長時間に及ぶ手術では、麻酔医の技術と経験がとても大切な要素になってくるのです。

プロポフォールは、短時間作用型なので、副作用の出る時間が短くて済みます。

また鎮静剤で問題になる「効果の遅延」の問題をかなりクリアすることもできます。

これは「まだ薬が効いてないな」と思って、鎮静剤を追加しているうちに、血中濃度が高くなりすぎて思わぬ副作用を生じることです。

プロポフォールでは効果がすぐ出るため、過剰投与の危険性を減らせる可能性があるのです。

また、GABA(ガンマアミノ酪酸)に関係する経路で効果を出すため、検査が終わった後に、とても爽快な感じが残ることがあります。

「これならまた検査を受けてもいいな」と思わせる効果が、この薬にはあるのです。

■プロポフォールの課題

プロポフォールはこのように、検査の麻酔、特に内視鏡検査のように数分間効けばよいという短時間の麻酔にはとてもよい薬です。

しかし、注意点もいくつかあります。

一つは、「依存性」の問題です。

お酒と同じように「すぐに効いてすぐに覚める」薬は、「もっとほしい」という欲求が強く生じます。

もう一度使うと「もっともっと」となって、結果的に「依存症」になりやすい。

もちろんプロポフォールは注射薬しかないので、普通の方が手軽に手に入れることができません。

マイケル・ジャクソンの場所は、担当の医師を雇って毎日のように注射をしてもらっていたようです。

「ザ!世界仰天ニュース」では、韓国の男性が、毎日のように内視鏡検査を受ける話が出ていました。
現在の日本では、ちょっと難しい気がします。

もう一つは「急性毒性」の問題です。

お酒の「一気飲み」が生命を奪うことがあるように、どんな麻酔薬でも「使いすぎ」は厳禁!

私たちは、必ず血圧と血中酸素濃度をモニターしながら、注意深く薬を投与しています。

■「安全」な内視鏡検査こそが大切。

内視鏡検査をらくにうけることができれば、「また受けてもいいかな」という気になります。

逆に、一度つらい思いをしてしまうと、「こんな検査、二度と受けたくない」と敬遠されてしまいます。
内視鏡検査さえ受ければ、早期に見つかったはずの胃がんや大腸がん。検査のつらさが理由で見落とされていた例を何度も経験しました。

だから、検査は「楽に」受けてほしい。
そして「安全に」受けてほしいと切に思います。

内視鏡検査を、どうすれば楽に受けられるか、相談してみたいと思ったら、いつでも、お気軽にご連絡ください。